MOIZのBlog-的外れな指摘

アメリカ在住の日々の雑事を綴ります

「人体六〇〇万年史」を読んだらピテカントロプスが出てこなかった

「人体600万年史─科学が明かす進化・健康・疾病 」早川書房、ダニエル E リーバーマン著, 塩原通緒訳) を読んだ。

上巻では人類が類人猿との共通子孫(LCA)から現生人類に進化するまでを追いかけ、そのときどきの人類の先祖の生活、特に食生活が人体に与える影響を解説し、下巻では現生人類が自らの生み出した文化によってどのような身体的影響を受けたかを説明している。

内容もおもしろかったのだが、実は自分が一番気になったのは、人類の進化の話なのに「ピテカントロプス」が全く出てこないことだ。人類の進化と言えば、アウストラロピテクスピテカントロプスネアンデルタール、クロマニヨン、と頭にすり込まれているのでピテカントロプスが出てこないのはとても意外。どこかごっそり読み落としたのではないかと不安になる。

どうしても気になったので検索してみたところ、ピテカントロプスというのはジャワ原人と同じもので、今はホモ・エレクトゥス(直立原人)という人類の仲間のうちの一つという扱いになっているらしい。確かにホモ・エレクトゥスという言葉は「人体600万年史」に頻出していた。どうやら研究が進むにつれ、ジャワ原人北京原人といった種類の生物は、人類の一種にあたるという見解が主流になり、猿人という意味を含むピテカントロプスは使われなくなったらしい。

ではいったいいつからこうなったのだろう。自分が学生だった30年くらい前は、たしかピテカントロプスという呼称は一般的だった。同じ頃「たま」も「さよなら人類」で「ピテカントロプスになる日も」と歌っていたので、その頃はまだピテカントロプスという名前は世間では広く使われていたのだろう。

日本語版Wikipediaでは「2012年現在はヒト属に分類され、Homo erectus(ホモ・エレクトス)の亜種の一つ Homo erectus erectus(ホモ・エレクトス・エレクトス)と位置付けられている。」とあるので、少なくともこの十年くらいはホモ・エレクトゥスの一種としてあつかわれているのだろう。そうすると、2000年頃に呼び名がかわったのだろうか。

英語版のWikipediaを見ると、1970年代にはジャワ原人は人類の一種でホモ・エレクトゥスと見なす見解が広がったと書かれているので、その頃の学説の変化が20~30年かけて一般向けの解説書などのレベルに降りてきたのだろう。

ピテカントロプス以外ではネアンデルタール人についても自分が若い頃に学んだものとは大分違ったとりあげられかたをしている。最近報道もされていたが、ネアンデルタール人は我々現生人類とかなり長い時期共存していて、一部では混血もあったという。ネアンデルタール人は石器などの道具も使うなど、かなり頭も良かったようだ。このあたりすぐれた現生人類においやられた、野蛮で原始的な旧人類という昔のイメージとは大分違うようだ。

この他に、ホモ・ホモ・フローレシエンシスという現生人類より大分小さなヒトの一種が紹介されている。しかもこの種類の人類は5万年くらい前まで生き残っていたらしい。え?聞いたことない!と思ったら、発見されたのは2003年の事だとか。

人類の進化の歴史なんて、新発見があるにしても定説が変わるには時間がかかるし、自分の知ってることが変わることなんてそうそうないだろうと思っていたが、こういう大きな変化があることにおどろいた。自分が忙しくて知識のアップデートをさぼってる間にこんなことになっているとは。やはり人間学び続けなくてはならない。

 

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